1997年。人々の関心はすでに宇宙から離れ、宇宙開発を本気で信じる者はごくわずかになっていた。火星と金星への有人探査は終わったものの、その先の計画は立ち消えとなり、開発は長い停滞期に入っている。
そんな時代を生きるのが、57歳の元宇宙飛行士マックス・アンドルーズだ。かつて宇宙へ飛んだ栄光も今は遠く、鬱々とした日々を送っている。そこへ現れたのが、木星探査計画を公約に掲げる女性上院議員候補だった。もし彼女が当選し、宇宙開発が再び動き出せば、自分にももう一度宇宙へ行く機会が巡ってくるかもしれない。57歳のマックスにとって、それは人生最後の挑戦だった。
マックスは彼女を当選させるために奔走する。資金集め、票集め、政治的な根回し。かつて英雄だった男が、衰え始めた体と薄れた知名度を頼りに選挙戦を駆け回る。その過程は決して派手ではない。むしろ地味で泥臭い。しかし、その一歩一歩に宇宙への夢を決して捨てなかった男の執念が込められている。
本作はSFというよりヒューマンドラマに近い。ロケットも宇宙船も登場せず、宇宙はマックスの夢の中と夜空の星々の向こうにしか存在しない。それでも間違いなく宇宙小説だ。宇宙へ行きたいという純粋な欲望そのものを、ここまで真正面から描いた作品はそう多くない。
物語のもう一つの軸となるのが、女性ジャーナリストのデラとの関係である。宇宙への情熱と老いへの自覚の間で揺れるマックスにとって、デラは現実と夢の狭間に立つ存在だ。ふたりのロマンスは押しつけがましさがなく、それでいてしっかりと胸に残る。感傷を恐れず描く筆致には、作者ブラウンらしい魅力がある。
原著は1953年刊行。当時はまだ人類が宇宙へ到達しておらず、本作が描く1997年は純粋な近未来だった。しかし半世紀以上を経た今読むと、この設定は別の重みを帯びて見える。現実の宇宙開発もまた加速と停滞を繰り返しながら進んできた。だからこそ、マックスの夢は色あせるどころか、より切実な輝きを放っている。
2007年放送の「天元突破グレンラガン」最終話のサブタイトルに採用され、2008年には解説を中島かずきが担当した新装版が刊行された。そのつながりは偶然ではないだろう。本作の「諦めるな、前へ進め」という精神は、グレンラガンの魂とまっすぐにつながっている。
文章技術や構成の巧みさを超えて、感情そのものに訴えかけてくる作品だ。読み終えたときには、ただただ胸が熱くなり、気がつけば涙がこぼれていた。宇宙への憧れを少しでも持ったことがある人なら、きっと心を揺さぶられる一冊である。
コメントはまだありません。