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恒星間の孤独な船で、犯人は誰か——漂泊の星舟

地球は限界を迎えた。人類の未来を託され、80人の若い女性たちが植民船〈フェニックス〉で恒星間航行へ旅立つ。しかし出発直後、船内で爆破事件が発生する。

主人公アスカは、本来この船に乗る予定ではなかった「補欠」の乗組員だ。周囲に居場所を見いだせないまま過ごしていた彼女は、ある日コマンダーから密命を受ける。「犯人を探し出せ」。密閉された宇宙船の中で、80人のうち誰かが仲間を裏切っている。

物語は二つの時間軸で進む。現在の宇宙船では犯人捜しとサスペンスが描かれ、過去の訓練時代では候補生たちの学園生活や複雑な人間関係が積み重ねられていく。やがて二つの物語が交差したとき、事件の意味そのものが大きく変わって見えてくる。

著者は日米にルーツを持つ作家、北清夢。異なる文化のあいだで育った経験が、アスカの「どこにも属しきれない感覚」に自然に重なっている。その孤独が、閉ざされた宇宙船という舞台で強く際立つ。

また、乗組員が全員女性という設定も重要だ。人類存続の使命、限られた資源の中での権力や役割、未来へ命をつなぐ責任と個人の意思。そうしたテーマが、船内社会の中で具体的に描かれている。

宇宙SFとミステリを組み合わせた作品だが、本作はそれだけではない。青春小説のような人間関係の積み重ねが後半の展開に深みを与え、600ページを超える長篇だが物語は最後まで勢いを失わない。2026年邦訳SFとして注目すべき一冊。



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