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歴史の傷に寄り添い、命を繋ぐ者たちの話——草を結びて環を銜えん

本書のタイトルは、中国の故事成語「結草銜環」に由来する。恩を受けた者が死後も草を結んで恩人を助け、玉の環を銜えた鳥が恩返しをしたという二つの故事から生まれた言葉で、その意味は「受けた恩を決して忘れない」。この主題は、本書に収められた7篇すべてを貫いている。過酷な運命に翻弄されながらも、誰かへの恩義や愛情を支えに生きようとする人々の姿が描かれているのだ。

表題作「草を結びて環を銜えん」は、1645年の揚州大虐殺を背景にした幻想譚である。住民皆殺しの命令が下された街で、意地悪だが小鳥を心から愛する遊女・緑鶸が、纏足の少女・雀を連れて逃避行を続ける。美貌と知性、そして不思議な力を武器に地獄と化した揚州を生き抜こうとする物語は、歴史の惨禍を真正面から見据えながら、その中でなお命をつなごうとする人々の意志を鮮やかに描き出している。

「訴訟師と猿の王」は表題作と対をなす作品だ。同じく揚州大虐殺後の中国を舞台に、改変された歴史の陰に潜む猿の王と、その存在に触れた若い訴訟師を描く。「英雄なんてものはいないんだよ」という猿の王の言葉は、歴史とは誰によって語られ、何が忘れ去られていくのかと考えさせられる。

「烏蘇里羆」は近未来を舞台にした異色作で、日本人も重要な役割を担う。巨大な羆と機械が対峙する物語かと思わせて、やがて予想外の幻想へと姿を変える。日本的な感性とSF的想像力が自然に溶け合った作品で、本書の中では日本の読者に最も親しみやすい一篇かもしれない。

星雲賞を受賞した「シミュラクラ」は、生き生きと動く投射映像技術を発明した男と、その娘との葛藤を描く。テクノロジーが親子の関係をどう変え、また何を変えられないのかに迫る物語だ。そこには「子どもから完璧な存在として見られていた時期に留まりたい」という、愛情の形を借りた支配欲がある。

「『輸送年報』より『長距離貨物輸送飛行船』」は、気候変動対策の結果、ツェッペリン型飛行船が物流の主役となった並行世界を描くSF作品である。年報というドキュメント形式で語られるため、架空世界の歴史を実際の記録のように読ませる独特のおもしろさがある。

収録作を通して見ると、本書はSF的なガジェットやアイデアそのものよりも、歴史、幻想、そして人間の感情に重心を置いた作品集だ。ケン・リュウの短篇傑作集4冊の中でも、しばしば「最も中国的」と評されるが、その評価は的確だろう。中国史に刻まれた傷と誇りに向ける著者のまなざしが、ここでは最も鮮明に表れている。過酷な時代や運命に抗い、自ら道を切り拓こうとする人間の気高さ。その余韻が、読後も長く胸の奥に残り続ける一冊である。



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