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猫のほうがステータスが高い、宇宙規模のデスゲームへようこそ——冒険者カールの地球ダンジョン1

ある朝目が覚めると建物がペシャンコになっていた。宇宙のシンジケートが「通告した取り決めに人類が従わなかった」として地球を壊滅させたのだ。人類はその取り決めなど知るよしもないのだが、シンジケート側は確かに通告したと主張する。この理不尽なロジックが笑えるのは、ダグラス・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読んだことがある人ならわかるはずだ。あの地球破壊とまったく同じ論法だ。

生き残った人類1300万人に与えられた選択肢はふたつ。地上に残ってジリ貧に生きるか、宇宙人が地球の地盤ごと改造した18階層のダンジョンに挑むか。主人公のカール(27歳、トランクス姿)は、元カノが残していった飼い猫・プリンセス・ドーナツ・ザ・クイーン・アン・チョンク(通称ドーナツ)とともに地下へと飛び込む。

ダンジョンに入ると、RPGめいたシステムが起動する。モンスターを倒せば経験値とアイテムが入手できる。レベルが上がり、スキルを取得できる。そして自分たちの冒険は全銀河に娯楽番組として生配信されている。これがLitRPGというジャンルの基本だ。LitRPG(Literature×RPG)は2010年代にロシアで生まれ英語圏に広まったゲーム小説の形式で、ステータス画面や戦闘ログが文章に埋め込まれ、読者は自分がプレイしている感覚で没入できる。

本書の最大の強みはドーナツの存在だ。ダンジョン内ではゲーム仕様により猫が言葉を喋り、目からビームを放つ。そしてドーナツのステータス——筋力・知性・体力・敏捷・カリスマ——はあらゆる面でカールを上回っている。カールはすっかり従者扱いである。この凸凹バディのやり取りが、デスゲームの残酷さをコメディとして消化する緩衝材として機能している。邦訳版ではドーナツの台詞に「にゃ」が入るのだが、これは原著にはない中原尚哉訳者のはからいで、日本語版独自の仕様だ。

著者マット・ディニマンは2020年にオンライン出版社Royal Roadで本シリーズを自費出版し始めた。ヒュー・ハウイーの『ウール』と同じ経路だ。それがニューヨーク・タイムズのベストセラーになり、シリーズ累計400万部を突破し、ユニバーサル・スタジオとピーコックによる映像化まで決定している。現在原書は7巻まで刊行済みで、日本語版は2026年3月に1巻と2巻を同時刊行という形でスタートした。

ハードSFを好む読者には少し肩透かしかもしれない。しかし設定の奥には、ダンジョンの製作者側の思惑や、モブNPCたちの個々のバックボーンなど、読み進めると気になる層が重なっていく。読書体験としてはTRPGのセッション実況に近く、テンポよくページをめくれる構造になっている。猫好き、ゲーム好き、そして娯楽SFを探している読者には、迷わず勧められる一冊だ。



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外へ出た者は誰も戻らない、それでも人は外を見ようとする——ウール


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