著者のジョン・スコルジーはあとがきでこう語っている。
「これはポップソングだ。軽快でキャッチーで、読み終えたあとに少しでも笑顔になってもらえたらうれしい」
本書を読む前に知っておくべきことは、たぶんそれだけで十分だ。
物語の主人公ジェイミーは、2020年のパンデミックで会社を解雇され、フードデリバリーで日銭を稼いでいた。そんなある日、旧友から「大型動物の権利を守る組織」への就職を持ちかけられる。怪しい話だと思いながらついていくと、そこは並行世界に存在する「怪獣惑星」の地球だった。しかも保護対象は、体長150メートル級の巨大怪獣である。
この作品は、なにより設定が抜群にうまい。怪獣を「人類の敵」ではなく、「絶滅危惧種として保護すべき生物」と捉えた瞬間に、物語の方向性が一気に決まる。怪獣保護協会(KPS)のメンバーたちは、生態調査を行い、繁殖を助け、ときには危険な侵入者を排除する。その活動に資金提供者として入り込んできた億万長者が、怪獣を私利私欲のために利用しようとしたことで、物語は動き出す。
善悪の構図はわかりやすく、悪役は徹底して嫌なやつだ。そのため読者は迷わず物語に乗ることができる。難しいことを考えず、気持ちよく楽しめるエンタメとして非常に完成度が高い。
タイトルにあえて「KAIJU」という日本語を使っていることからもわかるように、本書には日本の特撮怪獣映画への深い愛情が流れている。ゴジラ、ガメラ、モスラ——そうした作品群への敬意が、怪獣の描写や世界設定の細部にまで行き届いている。特に、怪獣と寄生生物の関係性などの生態設定は妙に説得力があり、読みながら思わず感心してしまう。
日本語版の布陣も豪華だ。解説はガイガン山崎、装画は開田裕治が担当している。作品への愛情を受け止めるには、これ以上ない顔ぶれだろう。
スコルジーによれば、もともとは「暗く重く複雑な長編」を書く予定だったという。しかしコロナ禍で心が追いつかなくなり、その代わりに本作が一気に生まれた。その背景を知ると、本書の軽やかさにも納得がいく。苦しい時期に書かれたからこそ、「とにかく楽しいものを書こう」という意思が、作品全体を貫いているのだ。
もちろん、重厚なハードSFを期待すると少し肩透かしかもしれない。だが、マーサ・ウェルズの「マーダーボット・ダイアリーズ」シリーズや、アンディ・ウィアー作品のような、軽妙で読みやすいSFが好きなら間違いなく楽しめる。
本作は2023年のローカス賞、2024年の星雲賞長編部門を受賞。肩の力を抜いて読めて、読み終えたあとにはちゃんと笑顔になれる。そんな一冊だ。
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