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服が人を支配する——ワイドスクリーン・バロックの代表作——カエアンの聖衣〔新訳版〕

惑星カエアンの人々にとって、服は単なる衣装ではない。「服は人なり」という思想を文字どおり生きており、服を着ることは、その服が持つ文化や価値観、人格までも身にまとうことを意味する。カエアン製の衣装は着る者の姿勢や思考を変え、やがて人格そのものにまで影響を及ぼす。その不思議な衣装は敵対するザイオード人たちをも魅了し、高値で闇取引されるほどの価値を持っていた。

物語は、ザイオードの密貿易業者たちが難破したカエアン宇宙船から衣装を回収するところから始まる。その中には、想像を超える力を秘めた一着のスーツがあった。ここから作者バリントン・J・ベイリーは、読者の予想を軽々と飛び越える奇想の連鎖を展開していく。

衣装哲学を究めれば宇宙の真理にたどり着けるのか。服が人を変えるのか、それとも人が服を変えるのか。本作は「服こそが主役」という発想を徹底的に押し進めた作品である。

さらに、極低周波を武器にする獣、極限まで機械化したロシア人の末裔、ヤクーサ・ボンズに率いられた日本人の末裔のサイボーグ集団、蝿の惑星、受動的知性など、次々と奇抜なアイデアが登場する。ひとつひとつを取り出せば思わず首をかしげたくなるが、それらが結びつくことで圧倒的なスケールの宇宙像が出現する。そう、個々の要素は奇妙なのに、全体として驚くほど豊かな世界が構築されているのだ。

本作は緻密な理論で積み上げられたハードSFではない。むしろ奇想をさらに奇想で上塗りしながら宇宙規模の物語を描く、「ワイドスクリーン・バロック」の代表作と呼ぶべき作品だ。細かな説明は最小限に抑えられ、新たな概念が次々に投入される。その奔流に身を任せることで、本作ならではのおもしろさが見えてくる。

作者バリントン・J・ベイリーは1937年生まれのイギリス人作家。マイケル・ムアコックに見いだされ、ニュー・ウェーブSFの周辺で活動した。生前は十分な評価を受けたとは言い難いが、没後になってその独創性があらためて注目されている。日本では特に熱心な支持者が多く、本作と『禅銃』が代表作として知られる。大友克洋や士郎正宗への影響も指摘されており、後のクリエイターたちに大きな足跡を残した作家であることは間違いない。

2016年にはハヤカワ文庫補完計画の一環として、大森望による新訳版が刊行された。旧訳では伝わりにくかった文体の疾走感や独特の奇妙さが、現代的な語り口でよみがえっている。星雲賞受賞も納得の一冊だ。

読み始めればまず「なんだこれは!?」と戸惑うだろう。しかし読み終えたときには、「もっとベイリーを読んでみたい」と思わされる。その強烈な印象こそが、本作最大の魅力である。



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