遠い未来。銀河辺境のある恒星系が、人工的な楕円軌道を描いていた。しかしそこに生命の姿はない。残されているのは、恒星系そのものを設計・改造した痕跡だけ。その未知の種族は〈オーラリメイカー(星系儀製作者)〉と名付けられ、調査員イーサーは彼らの正体を追う任務に就く。
本書のキモは、「不在の知性を追う」という発想だ。宇宙の各地に巨大な改造の痕跡を残しながら、決して姿を現さない〈オーラリメイカー〉。その謎を解き明かす過程で、物語は10万年規模の時間をまたぎ、宇宙各地の視点人物へと切り替わりながら進んでいく。スケールは壮大だが、本質はシンプル。知性とは何か。そして知性はなぜ宇宙へ広がろうとするのか。
著者の春暮康一は生物学修士の経歴を持ち、その知識が作品全体の説得力を支えている。本書は『一億年のテレスコープ』と同じ世界観に属しており、有機知性、AI(作中ではDI)、〈オーラリメイカー〉、トーチ人など、多様な知性が登場する。それぞれが異なる認知や価値観を持ち、出会いと誤解、そして理解の積み重ねが物語を動かしていく。まさにハードSFの王道を行く作品であり、SFコンテスト受賞作らしい完成度の高さを感じさせる。
特に表題作「オーラリメイカー」は、壮大な宇宙SFでありながら構造としてはミステリに近い。読者は断片的な手がかりを追いながら、時系列を行き来する物語の中で少しずつ真相へ近づいていく。〈オーラリメイカー〉という存在そのもののビジュアル的な魅力も強く、最後まで引き込まれる。
一方、併録作「虹色の蛇」は対照的な作品だ。こちらは太陽系人ひとりの視点から描かれる比較的小さな物語で、電荷を帯びた雲のような異星生命との接触がテーマになっている。宇宙史規模の謎を扱う表題作と、ひとつの出会いに焦点を当てた「虹色の蛇」。両者のスケールの対比が、単行本版の魅力になっていた。
2023年刊の完全版では、表題作と「虹色の蛇」が大幅に改稿され、さらに新作中編「滅亡に至る病」が追加された。新篇も同じ世界観に属しており、ファーストコンタクトの別の側面を描いている。3作品が一冊に収まったことで、この宇宙の奥行きはさらに増した。
春暮康一のデビュー単行本でもある本書は、この世界観へのよい入口だ。まず本書を読んでから『一億年のテレスコープ』へ進めば、同じ宇宙が長編スケールで展開する楽しみが待っている。逆に長編からさかのぼってもよい。この宇宙の設計図を手に取る最初の一冊として、本書はどちらの読み方にも応えてくれる。
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