2045年。2030年代に広がったドローン中心の非対称戦争への反省から、世界では公正戦という仕組みが定着している。戦う前に兵力や勝利条件を決め、実際の戦闘は民間軍事企業に委託する。無差別な破壊を防ぐための制度だが、その裏には限界もある。資本や技術の差が勝敗を左右する構図は、結局変わっていない。
そんな公正戦の現場で、ジャーナリストの迫田城兵は不可解な出来事に出会う。国際独立市〈テラ・アマソナス〉のコンサルタント、チェリー・イグナシオが、敵側企業〈グッドフェローズ〉の捕虜五人を、ルールを破って銃殺したのだ。迫田はすぐに記事を書き、事実確認プラットフォーム〈コヴフェ〉へ送る。だがAIの判定により、信頼度が低いとして配信を拒否されてしまう。記事に誤りはない。それでも正しい事実がはじかれる。
なぜイグナシオはルールを破ったのか。なぜ正確な記事が認められないのか。この二つの疑問から物語は動き出す。イグナシオ本人の依頼を受け、迫田は〈グッドフェローズ〉唯一の生き残りレイチェル・チェンとともに、第二内戦後の北米を旅する。やがて調査は戦死者の遺族へと向かい、企業のメンバーに共通するある秘密が浮かび上がる。
その核心には、遺伝子編集や人体改変が関わっている。詳しくは読んで確かめてほしいが、物語の根底には、「人類とは何か、何がそれを継ぐのか」という主題がある。AIによる情報統制、生殖と遺伝子設計の倫理、分断された社会や気候変動など、多くのテーマが扱われている。それでも、各要素が散らばって霧散しないのは、取材というかたちで落とし込まれた構造、ひいては、藤井太洋の豪腕のなせる技だ。
もともとは『SFマガジン』で2017年から2021年に連載され、第53回星雲賞を単行本化前に受賞した作品である。その後の単行本版では、ロシアの侵攻など現実の変化も取り込まれ、さらに深みを増している。
個人的に印象に残ったのは、技術描写の細かさだ。たとえば四足歩行兵器〈マスチフ〉の光学迷彩は、単に透明になるのではなく、角度によって像が崩れるものとして描かれる。一見すると回りくどい表現にも思えるが、その描写があることで、技術は便利な記号ではなく、実際に運用される装置としての役割を担う。そのため、読者はその挙動や制約を具体的にイメージできるようになる。結果として、状況の理解に余計な説明を要さず、ディテールはアクションの速度を損なうどころか、むしろ加速させているのだ。
藤井太洋++
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