「AIは公平だから、人間よりも信頼できる」。その命題を誰もが信じている世界で、その命題の穴を突くことだけを考えている男がいる。
近未来の日本では、法務省が鳴り物入りで導入したAI裁判官が法廷を仕切っている。偏見なく、疲れず、感情に流されない機械の番人は、訴訟の省コスト化・高速化をもたらし、法の恩恵を広く行き渡らせるという触れ込みで受け入れられた。そんな法廷で不敗を誇る弁護士・機島雄弁の正体は、ハッキングによってAIの出力を操作し勝訴をもぎとる「魔法使い」だった。
AIが正義の守護者として機能するほど、その内側を読み切った人間が、もっとも巧みにその判断を操ることができる。機島は条文の抜け道をあさる従来型の弁護士ではない。AIの判断の流れを分解し、どの入力がどの結論へ結びつくのかを見極め、望む結果から条件を組み立てていく。法の解釈ではなく、システムの設計を読み解く。そこに成立しているのは、まったく新しい法廷の技術だ。
物語は複数の依頼を軸に進む連作形式で、各依頼が独立したエピソードとして完結しながら、機島というキャラクターの輪郭を積み重ねていく。依頼の内容は多岐にわたるが、いずれも「AIが正しく判断しても、それが依頼人にとって正義かどうかは別問題」というテーマを持っている。機島が勝訴をもぎとるとき、彼は正義のためではなく依頼人のために動く。その割り切りが、本書を単なるヒーロー譚ではなくプロフェッショナル小説として機能させている。
また、技術描写が重くなる前に次の展開へ進む竹田人造のテンポ感は、本書でも健在だ。IT・法律・AIにまたがる専門的な内容が嫌みなく語り口に溶け込んでいる。
著者は2020年に『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』でデビューしており、本書はその受賞後第1作にあたる。デビュー作でもAIと犯罪という組み合わせを扱っており、AIを悪として断罪するのではなく、AIのロジックを人間がどう利用し、どう裏をかくかという視点で一貫している。続篇『AI法廷の弁護士』(2024年)でさらに世界が広がるが、本書から読み始めることで機島という人物の出発点をきちんと掴むことができる。
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