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カルトで育った少女は、宇宙に出てはじめて世界の形を知る——Some Desperate Glory

※本作は日本語未訳です。リンク先はAmazon.comの英語版ページです。

地球は滅んだ。異星文明Majodaが持つ現実改変兵器Wisdomによって。

生き残った人類のわずかな残滓が集まるGaea Stationで、Kyrは生まれたときから復讐のために育てられた。人類最後の牙城として機能するこのステーションは、軍事的な序列と厳格な役割分担によって支配されており、女性は兵士として戦うか繁殖要員として子を産むかを選ばされる。Kyrは最強の戦士を目指し、その価値観を疑ったことがない。異星人は敵だ。共存などあり得ない。人類の使命は復讐だ。

物語が動き出すのは、コマンドが兄のMouseに自殺同然の任務を課し、Kyr自身を繁殖部門へ配置転換しようとしたときだ。その決定を拒絶したKyrは、兄の友人で思想的に危険視されている青年August、そして捕虜の異星人Lrelとともにステーションを脱出する。

ここまでの設定を読むと、地球人対異星人の復讐譚を想像する。しかしEmily Teshが書いているのはその逆で、むしろカルト育ちの少女が洗脳を解かれていく物語だ。Gaea Stationは人類の砦ではなく、特定のイデオロギーに閉じ込められた収容所に近い。ステーションの外に広がる銀河は、Kyrが教わったよりもはるかに複雑で、はるかに豊かで、そして人類だけが苦しんでいるわけではなかった。

Kyrは生まれ育った軍国主義的な社会の価値観に縛られ、義務・戦争繁殖・異種族嫌悪をすべて内面化した状態で物語を始める。その状態のKyrは、正直なところ不快なキャラクターだ。しかしTeshはその不快さを誠実に書くことで、価値観の変容を段階的に、説得力を持って描く。前半のKyrの言動に苛立ちを覚えるほど、後半の変化が読み手に刺さる。

Lrelという異星人キャラクターの造形が本書の魅力のひとつだ。捕虜として虐げられてきた存在でありながら、Kyrの世界観を崩す触媒として機能する。ふたりの関係の変化が、クィアロマンスとして丁寧に描かれており、人類対異星文明という対立の構図をより個人的な次元で解体していく。

「ヴォルコシガン・サガのような熱量と、ロックド・トゥームシリーズのような灼熱のキャラクターアーク、そして独自の倫理観持つ」という声は、複数の読者レビューで見受けられる。実際、2024年ヒューゴー賞長篇部門受賞、アーサー・C・クラーク賞最終候補、アーシュラ・K・ル=グウィン賞最終候補入りを果たした。デビュー長篇にしてこの水準は、Emily Teshという作家の今後への期待を否が応でも高める。邦訳が待たれる一作だ。



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