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永遠を持つ者と、限りある命を生きる者が出会うとき——『余命』n年

海辺の学校に転校してきた有明ありあは、神秘的な雰囲気を持つ少年ハルキと出会い、絵のモデルを通じて距離を縮めていく。しかしふたりはまだ知らない。それぞれが抱える秘密が、その関係に途方もない隔たりをもたらすことを。

本作のテーマは、不死者と定命者の非対称性だ。決して死ぬことのないハルキと、限りある命を生きる有明。ふたりが抱える病の真実が明らかになるにつれ、物語は永遠と別れという重いテーマへ踏み込んでいく。

愛する相手が老い、病み、やがて死んでいく姿を見続けなければならない苦しみ。限られた時間しかともに過ごせない切なさ。本作は、そのどちらか一方ではなく、両方の痛みを等しく描こうとしているところに大きな魅力がある。

プロット・原案を手がけたのは声優の花守ゆみり。声優デビュー10年を超えたころ、自分自身の価値観を誰かに伝えるために文字で表すことを試みた体験が、本作の原点になったという。永遠と別れというテーマには、花守自身の思いが込められており、それを岬鷺宮が小説として形にした。

岬鷺宮は『三角の距離は限りないゼロ』などで、繊細な感情描写に定評のある作家だ。本作でも、ふたりの出会いから心を通わせていく過程、そして秘密が明かされたあとの感情の揺れが丁寧に描かれている。切なさが積み重なる物語でありながら、読み終えたあとには「永遠」という言葉の意味が少し変わって見えてくる。

カバーイラストを担当したのは山口つばさ。代表作『ブルーピリオド』でも知られる、流れるようで緻密な絵柄が本作の世界観にぴったり重なっている。装丁の魅力だけでも手に取りたくなる一冊だ。

タイトルにある「n年」という表記は、あえて数字を定めない余命を意味している。ハルキにとってのnは無限であり、有明にとってのnは限りある時間だ。本作は、その非対称なふたつの余命のあいだにも、確かに愛は生まれることを丁寧に描き出している。



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