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一篇三分で世界が反転する、ショートショートの神様——ボッコちゃん

星新一を初めて読むなら、まずはこの一冊でいい。『ボッコちゃん』は、1001編を超えるショートショートを書いた星新一が、自ら選んだ50篇を収めたベスト短編集だ。

著者自身もあとがきで、本書を「私、星新一というあやしげな作家そのものを、ショートショートに仕上げた形だといえるかもしれない」と書いている。実際、この一冊を読めば、星新一のおもしろさはだいたいわかる。

表題作「ボッコちゃん」は1958年発表。バーで働く美しいロボット店員に恋をした男が、酒に毒を仕込んで飲ませる。しかし相手はロボットなので、何も起きない。シンプルな設定なのに、結末は強烈だ。大森望が「日本SF史上もっとも有名な短編」と評したのも納得できる。しかも、客の言葉をそのまま繰り返すだけのボッコちゃんは、人工無脳 ELIZAが誕生する6年前に書かれている。1958年にこの発想があったことにも驚かされる。

収録作の幅も広い。「おーい でてこーい」は、底なしの穴に廃棄物を捨て続けた人類にしっぺ返しがくる環境寓話。「生活維持省」は、市民を無作為に「処分」する社会を描いたディストピア短編。「月の光」は、人間の凶暴性を引き出す電波をめぐる皮肉な一編だ。

どれも数ページで終わる。それなのに、読後には長編を読んだような余韻が残る。

星新一のショートショートは、とてもシンプルだ。奇妙な設定を一つ示し、そのルールを丁寧に広げ、最後に読者の予想を軽やかに裏切る。文章は乾いていて、余計な感傷がない。登場人物も「男」「女」「博士」「大臣」といった記号的な存在として描かれることが多い。だからこそ物語は、特定の誰かではなく、人間そのものへの風刺として響いてくる。

SFもあればミステリーもある。ファンタジーも寓話も、童話のような作品もある。本書には悪魔を呼び出す話も、殺し屋を名乗る女性の話も、地球最後の人間の話も出てくる。それでも50篇を通して見えてくるのは、人間の欲望や虚栄、愚かさだ。星新一はそれを切り捨てるのではなく、少し意地悪で、どこか優しげな視線で描いている。

一編は短く、通勤電車でも読める。でも読み終えるころには、人間という生き物の縮図を見せられた気分になる。

半世紀以上読み継がれてきた理由が、読むだけでよくわかる一冊だ。



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