学費無料という一点に惹かれ、15歳の雅日は月の高校へ入学する。だが、そこで待っていたのはただの学園生活ではなかった。生徒たちは11の国家に分かれ、それぞれ政治を行いながら月面統一を競う実験社会。その日から雅日は、国家運営の渦中へ放り込まれていく。
高校生と政治。この組み合わせは一見ちぐはぐに見える。しかし著者の新馬場新は、その違和感を意識したうえで舞台を月面に設定した。地球から切り離された閉鎖空間だからこそ、高校生の等身大の感情と国家運営という大きなテーマが自然に噛み合う。「卒業がある舞台で、どう学生たちが国家を運営するのか」という発想が、本作のポイントになっている。
作中には11の国家が存在し、それぞれ異なる政治体制や理念、戦力を持つ。生徒たちは制服姿のまま外交し、交渉し、ときには裏切り、連合を組む。サブタイトルの「王と制服」が示す通り、本作では権力の象徴である「王」と、学生という立場を表す「制服」が対比されている。制服を脱いだあと、自分は何者になるのか。その謎が、雅日の成長とともに積み重なっていく。
読みやすさを支えているのは、キャラクター描写の巧さだ。著者はこれまでの作品で重厚な設定を書けることを示してきたが、本作ではあえて設定より先にキャラクターを立てることを重視したという。その狙いはうまくはまっていて、雅日をはじめ各国の生徒たちの個性が鮮明だからこそ、政治劇の駆け引きが単なる設定説明ではなく、感情のドラマとして機能している。
同月刊行の詠井晴佳『最高糖度をきみに』とは、早川書房の〈JA NEW GENERATION〉として同時に送り出された。
しかし二作の方向性は大きく異なる。詠井が量子論と一対一のロマンスを描くのに対し、新馬場は集団、権力、組織の力学を描く。どちらもSFでありながら、アプローチは対照的だ。両者を読み比べてみるとおもしろい。
「今までありそうでなかった学園政治劇」という著者自身の言葉は、本作をよく表している。月面という開かれた舞台と、卒業によって終わりが訪れる学校という時間の有限性。その組み合わせが、本作に独特の緊張感と疾走感を与えている。今後のシリーズ展開にも期待したい。

コメントはまだありません。