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【読書ログ】フォース・ウィング【竜に選ばれることは、運命に選ばれることだ】

「ロマンタジー」という言葉を初めてみたとき、正直なところ少し身構えた。ロマンスとファンタジーを掛け合わせた造語で、恋愛要素の強いファンタジーを指すジャンルだ。いわいるSF・ファンタジー読者である私としては、どこか軽くみてしまう部分があった。ところが読み始めると、その身構えはあっさり崩された。

舞台は、竜の騎士たちが魔法で国防を担う国ナヴァール。書記官を目指していた20歳のヴァイオレットは、軍司令官である母親の命令でバスギアス軍事大学への入学を強制される。そこは入学者の大半が過酷な訓練や同期生との争いで命を落とす、死と隣り合わせの場所だった。身体が丈夫でないヴァイオレットは、周囲から最初に消えるべき弱者として狙われる。さらに彼女が配属された第4 騎竜団の団長ザイデンは、母親への因縁から彼女の命を脅かす存在でもあった。

設定の骨格は「危険な学校もの」の王道だ。ハリー・ポッターのホグワーツ、あるいはエンダーのゲームの戦闘学校に近い構造で、ルールや序列、訓練の描写が丁寧に積み上げられている。そこに竜という存在が加わることで、独特の緊張感が生まれる。竜は人間を一方的に選ぶ。選ばれなければ騎手になれないし、そもそも生き残れない。自分の努力だけでは決まらない理不尽さが、物語に運命的な切実さをもたらしている。

ヴァイオレットというキャラクターが魅力的だ。小柄で身体が弱く、でも頭は切れる。弱さを自覚したうえで、それでも何とかするために考え続ける。「弱い主人公が強くなる話」ではなく、「弱いまま知恵と人脈と意思でやっていく話」に近い。そのリアリティが、ファンタジーの世界にいながらもヴァイオレットへの感情移入を助けてくれる。

ゼイデンとの関係の描き方も上手い。敵意から始まる関係が変化していく過程を、著者はじりじりと焦らしながら書いている。危険な場所で危険な相手を信頼するかどうか迷うという状況が、感情の強度を自然に上げていく。ロマンスが浮いて見えないのは、生死がかかった状況と恋愛感情が地続きで描かれているからだと思う。

読み終えて思ったのは、「これは竜と人間の話ではなく、信頼の話だ」ということだ。選ぶ側と選ばれる側、守る側と守られる側、傷つける側と傷つけられる側——そういう関係の中で、それでも誰かを信じることを選ぶ話。ロマンタジーという形式に乗せて、古くて普遍的な問いが書かれている。

2025年の本屋大賞翻訳小説部門で1位を取り、世界42カ国で発売されて英語圏だけで600万部を超えたという事実——ここまで広く読まれる小説だということに、後方腕組みおじさんにならざるを得ない。



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