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不幸な乙女と幸運ショタ王子

 うだるような暑さを和らげるために右の手のひらを天にかざしてみますが、右手にさげたビニル袋の底が破けてじゃがいもがころころ転がっていきますし、ならばと左手をかざしてみますが、お気に入りの日よけ帽が一陣の風と共に云々。

 しかたなしに転がったじゃがいもを拾い集めようとしますが、最大勾配35度越えの坂の上で散らばったものを回収するのは至難の技で、というかどだい無理なお話で、2トントラックが無慈悲にじゃがいもをすりつぶしているさまを見届けるのが精一杯であるわけで。

 『今晩のおかずはじゃがいもの冷製スープにしよう!』などと、三食カップ麺生活万歳のうら若き乙女の、これまた今世紀最大のほとばしるパトスを踏みにじったトラックを恨みに恨んだところでじゃがいもは帰ってくるわけでもないので、一際大きなため息とともにピンヒールの先にじゃがいもペーストをべっとりとつけて家路についてみたはいいものの、『結局何も買えてないじゃん!』っていう事実に気づくこと、玄関前1メートル。

 『カップラーメンでいっか』という諦念を胸に秘めて木造のオンボロ扉を開けようとしますが、なんていうことでしょう。パキッっという情けない音とともに鍵の先がドアノブに収納されたではありませんか。

「大家さーん、鍵が開かなくなっちゃったんですけどー」

 一階の隅っこの部屋の扉をノックしてみますが、全くの無反応。そういえば、「今週は友人たちとタイ旅行に行くから何かあったら不動産屋さんに電話してねー」って言っていたことを思い出し、スマホを出して不動産屋さんに電話してみようとしますが、まさかのバッテリー切れ。予備バッテリーも同じく撃沈。

「どうすんのよ、もぅ」

 独白にも似た声が自然と吐露されますが、現実は無情で非情。エントロピーの増大に拍車をかけるのもしゃくなので自宅の扉に背を預けて座り込むと、少しばかり眠ることにしました。

・・・

「お姉さーん、風邪ひくよー」

 目を開けると、鼻先には年端も行かない男の子。私がショタ王子と呼んでいる隣の男の子だ。

「いっそのこと風邪をひいたら看病してくれる?」

 うわぁというショタ王子の冷ややかな視線をうけつつ、おどろおどろしい感情がうちから湧き上がっていることを認めつつ、

「どめざぜでぐだざいぃぃぃぃぃぃぃぃい」

 と、恥も外聞もかなぐり捨ててショタ王子の胸に顔を押し付ける。あら、柔軟剤のいいかほり。

「別に、いいけど」

 満更でもない顔をうかべていることを私は見逃しません。くっそ、スマホがあれば写真めちゃくちゃ撮ったのに!

 こうして、ショタ王子の部屋でしばらくの間お世話になることになるのですが、これはどこか遠いお話。



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