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風鈴

 床板を踏み抜く音が普段と比べて弱々しい。それに比べ、風鈴の音は猛々しい。

 どこか郷愁にかられる胸の思いを秘めつつぬれぶちに腰掛けていると、母さんが居間からやってきた。時の試練に耐えかねた節々からは、ぎしぎしと音が聞こえ、しわくちゃの両の手にはスイカを乗せたお盆。

「食べるかい?」

 ふと、隣で腰をおろした母さんの体躯がひどく小さくなっていることに気づき、一抹のむなしさを感じた。

「うん、食べるよ」

 時の流れは残酷だ。止めようとしても、それは叶わない。単に二重螺旋に基底された行動でしか魂のありかたを知り得ないのに、それでいて、美しいからタチが悪い。

 膝の上に置いていたお盆を自分の隣に置くと、一切れのスイカを渡してくれた。

「暑いねぇ」

「だね」

 普段だったら箸にも棒にもひっかっからないたわいもない話として終わるだけであっただろうけど、きょうにかぎって言えば一生の思い出になると予感した。それが当たったのは、ひさびさに外に出した風鈴の音を聞いたからなのだけれども。



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