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ただのゲーム空間が新たなビジネスインフラになる日

1.4億人が熱狂する「ロブロックス」、幹部が語る“企業参入の勝算” 講談社やカルビー相次ぎ参戦

Robloxを巡る今回の記事は、単なるゲームプラットフォームへの企業タイアップ事例紹介にとどまらず、日本企業にとってRobloxがどのような新しいマーケティング基盤や事業インフラになり得るかを示す材料になっている。まず前提として押さえるべきは、Robloxが単なる人気ゲームではなく、ユーザーがゲームを制作し公開し、他のユーザーがそれを遊ぶ世界最大級のオンラインプラットフォームであるという点である。スマホやPC、ゲーム機など多様なデバイスからアバターを通じて参加し、同じ仮想空間で遊んだり会話したりする性質から、ゲームSNSあるいは体験型ソーシャル空間に近い媒体として機能している。1日平均約1億4400万人、うち13歳以下が約3分の1という利用者構成を持ち、特にα世代へのリーチ基盤としての強さが記事の出発点となっている。

このα世代へのリーチ基盤に加えて重要なのは、RobloxがUGC的なゲーム制作ツールを備えており、ゲーム未経験者でも比較的容易にコンテンツ制作者になれる設計だという点である。Robloxで遊んで育った世代が大人になり、今度はクリエイターとしてゲームを作る側に回るケースが増加しているとされる。このようにプラットフォーム内部で遊ぶ側と作る側が循環する構造は、メーカーが作りユーザーが遊ぶという従来型の非対称なゲーム産業とは異なるダイナミクスを企業にも突き付けているといえる。

こうしたプラットフォーム内部の循環構造が新たなダイナミクスを生むなか、日本企業の参入を後押しする環境も立ち上がりつつある。企業参入のハードルについて、米Roblox本社の上級副社長でありチーフデザインオフィサーである加藤匡嗣氏は「参入のハードルは低い」と明言している。同氏は日本では電通や住友商事がサポートを行い、代理店経由でもクリエイターとの直接協業でも制作できると述べている。特に住友商事は、日本企業の製品やブランドをRoblox上で世界に向けて発信するプロデュース機能を担い、プラットフォームと企業の間をつなぐハブとして位置付けられている。これらの発言や動きからは、Robloxが単体のプラットフォームではなく、広告代理店、総合商社、制作スタジオを巻き込んだエコシステムとして機能し始めていることが読み取れる。その一方で、エントリーコストの低さはコンテンツの供給過多と企業間競争の激化も内包しており、出ること自体に意味があったWeb初期の状況とは明確にフェーズが異なる点は、記事の行間から読み取る必要がある。

出ること自体に意味があったフェーズから変化する環境において、日本企業はエコシステムを活用しながら多様な手法でRobloxに参入している。その一つの枠組みとして、講談社やセガはLicenses Catalogを通じて人気IPをRobloxゲームに利用できる仕組みに関わり、一般ユーザーが作った既存ゲームに対して公式IPを提供するケースもあると説明される。ここでは、IPホルダーが自らワールドを一から作るだけでなく、UGCコミュニティにIPを開放し、二次創作的な広がりを許容するモデルが示されている。

UGCコミュニティにIPを開放するモデルが示される一方で、自社主導のワールド展開からグローバルな成果を得た象徴的なケースとして扱われているのがタカラトミーである。同社のベイブレードを活用した公式メタバースワールドであるBEYBLADE PARKは、立ち上げ当初はユーザーの80%が日本在住だったのに対し、現在は98%が海外ユーザーであり、特に東南アジアやアメリカからのアクセスが多いと記事は述べる。実在の玩具がデジタル空間で流行し、その認知が海外市場でのビジネス展開につながったという整理は、まずはメタバース内でブランドをヒットさせ、その後リアル市場へ浸透させるというルートが日本企業にも現実的になりつつあることを示す。

メタバース内でブランドをヒットさせる動きに関連して、プラットフォーム内外での露出構造を設計した事例として取り上げられているのがカルビーである。同社のじゃがりこ かくれんぼ!キリンたちを探せ!というゲームは、ゲーム内での体験に加え、アバター用じゃがりこアイテム販売を組み合わせている。同ゲームはすでに500万回以上のアクセスがあり、YouTuberによるゲーム配信動画でも累計100万回以上視聴されているとされる。ここで記事が強調するのは、RobloxがゲームのYouTubeとも呼ばれ、プラットフォーム内で話題化したタイトルが外部のプラットフォームの配信を通じてさらに拡散される二段階の露出構造である。企業の視点から見れば、Roblox内で遊ばれやすくかつ実況されやすいゲーム体験を設計することが、広告換算では測りにくいが無視できない価値を持ち始めているといえる。

実況されやすいゲーム体験やアイテム販売の広がりに加え、加藤匡嗣氏が将来像として言及しているのが「デジタル空間で買いものをしてリアルな商品が送られてくる」ような仕組みである。すでにゲーム内アイテム販売が一般化したRobloxにおいて、これはECとの一体化を見据えた構想として紹介されている。記事は具体的なスキームや時期には触れていないが、少なくともRoblox側が体験と購買を連続したものとして捉えていることは明らかであり、企業にとっては体験設計と購買導線設計の両輪が問われるステージに入る可能性が示されている。

体験と購買が連続する新たなステージに向けて、加藤匡嗣氏は日本市場を「アイデアやクリエイティビティがたくさんある市場」と評価し、多くの人にプレイしてもらい企業参入が進むことでさらに大きなマーケットになるとの見立てを示している。講談社やカルビーのようなIPホルダーやメーカーの事例は、そのための初期サンプルと位置付けられる。同氏が作ることの楽しさが最大の原動力だと繰り返し強調してきた経緯に照らすと、日本企業がRobloxで成果を出すためには、一方的な広告メッセージではなく、ユーザーの創造性や遊び方を尊重しながらブランド体験を共創する姿勢が不可欠であることが浮かび上がる。言い換えれば、Robloxに出稿するのではなく、Robloxカルチャーの一員として振る舞えるかが、企業参入の真の勝算を分ける条件になりつつあるといえる。



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