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価値観は、遠くの景色ではなく、近すぎる体温で変わるのかもしれない

「価値観を変えたければインドへ行け」と人は言う。熱気、におい、ざわめき、祈りの声。見たことのない色に包まれて、自分の常識がほどけていく、と。たしかにそれもあるだろう。でも、もっと近くて、もっと深くて、もっと生々しく自分を変える体験がある。

そう、セックスだ。

旅は外の世界を揺さぶる。セックスは内側を揺さぶる。

知らない街に立つと、自分が小さくなる。けれど、だれかの前で裸になると、自分がむき出しになる。肌と肌がふれた瞬間に理屈は消える。体温が伝わり、呼吸が重なり、鼓動が早くなる。そのとき、自分がどんな人間か言い訳なしに見せつけられる。

強がっていた人が指先ひとつで震える。冷静だと思っていた人が相手のひと言で不安になる。支配したい気持ちも、愛されたい願いも、ぜんぶあらわになる。そこには観光も評論もない。ただ参加しかない。

相手の目を見る。ほんの少しのためらい、期待、怖さ。そのすべてを受け止めようとする自分に気づくとき、価値観は静かにずれる。快楽だけではない。恥ずかしさ、喜び、痛み、安心。感情が混ざりあい、境界がゆらぐ。

だれかに触れることは、だれかを傷つける可能性も持つことだ。だからこそ、尊重や思いやりがなければ成立しない。そこに本気度があるとき、セックスはただの行為ではなくなる。自分中心だった世界が、二人の世界に変わる。

遠い国へ行かなくても、価値観は変わる。むしろ、目の前の一人と深くつながるほうが、ずっと怖いし、ずっと強い。

世界を見たいなら旅をすればいい。

でも、自分を知りたいなら、だれかと本気で触れ合えばいい。

価値観は、遠くの景色ではなく、近すぎる体温で変わるのかもしれない。



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