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空のタンクは捨てずに燃やす英国発の逆転発想

5分で解説

目次

3行まとめ

  • ・燃料タンク自体を燃焼させて推進力に変える自己消費型エンジンの開発が英国などで進んでいます。
  • ・この技術は機体の軽量化により、低コストでの深宇宙探査や積載量の増加を可能にします。
  • ・実用化に向けた試験は成功していますが、燃焼制御や大型化などの技術的課題も残されています。

本文

従来のロケット工学における最大の制約は、燃料を使い果たした空のタンクを死荷重として運び続けなければならない点にありました。この非効率性を根本から解決するアプローチとして、英国の宇宙スタートアップなどが開発を進める自己消費型エンジンを搭載した自分を食べる宇宙船が注目されています。燃料タンク自体を推進剤の一部として機能させるこの革新的な技術は、低予算での深宇宙ミッションを実現し、これまでの宇宙開発の常識を大きく変える可能性を秘めています。

この画期的なシステムの本質は、飛行中に自らの構造を消費することによる質量の継続的な削減にあります。ロケット方程式の支配下において、燃焼とともに質量が減少すれば、同じ推進力でより大きなペイロードを運搬できるか、あるいは同じペイロードでより高エネルギー領域へ到達できることになります。具体的には、ロケット構造全体の5~12パーセントを占める従来の構造材をペイロードの増加分として振り替えられる可能性があり、太陽系内部の高エネルギー領域や月、静止地球軌道の外側といった場所への科学的アクセスが現実的なものとなります。

開発を主導するメリディアン・スペース・コマンド創設者のサム・リチャーズ氏らが提唱するエンジンシステムは、ナイロン製のポリマータンクに過酸化水素を充填し、内部にねじ山を切った構造を採用しています。エンジン下部のスクリューをモーターで回転させてタンクを推進システムへ送り込み、圧力上昇と過熱プロセスを経て過酸化水素が供給される際、ナイロン製のタンク自体も燃焼して推力を生み出します。フランス拠点のAlpha Impulsionなどの分析によれば、この仕組みは従来型と比較して約50パーセント少ない燃料で済み、製造プロセスの単純化や軌道上に残る宇宙ごみの発生抑制といった環境面での利点もあわせ持ちます。

技術的な実証もすでに進んでおり、グラスゴー大学の研究チームが開発したOuroboros-3エンジンは、2024年初頭に100ニュートンの推力を生成することに成功しました。この実験では高密度ポリエチレン製の構造が従来の固体ロケット燃料の5~16パーセントに相当する燃料増加をもたらすことが確認され、スロットル制御や再点火、パルス発火が可能であることも証明されています。実用化に向けては、Alpha ImpulsionのOpal衛星推進システムが2025年後半の初期開発試験を経て2026年の適格取得キャンペーンへ進み、将来的には25メートルのGrenatロケットへの搭載や、2028年の初飛行が想定されています。

英国における動きも活発で、商業ロケットの相乗り機会を想定した経済的転送車両(ETV)プロジェクトは、英国宇宙庁からフェーズ1の予備設計審査に対して150,000ポンドの資金を受けています。静止地球軌道以上への打上げコストが低地球軌道の2.5倍程度かかるとされる現状において、autophage技術による低コスト化は、予算制約により高エネルギーミッションを諦めてきた科学機関にとって大きな福音となりえます。無人探査機ミッションやペイロード配置が容易になれば、宇宙活動の民主化が進むことも期待できるでしょう。

一方で、autophageエンジンの実用化には解決すべき課題も残されています。固体燃料と液体酸化剤の両方を燃焼室に供給しながら安定的かつ効率的な燃焼を維持することは技術的に複雑であり、大型エンジンにおいてはピストンシステムの圧倒的な力の確保も求められます。商業化の前段階として、より大きな推力を実現するためのスケーリングや長期信頼性の検証、運用プロトコルの確立が不可欠です。これらのハードルを越えた先に、持続可能な宇宙経済への重要なステップが存在しています。

元ネタ

自分を食べる」宇宙船を開発、低予算で深宇宙到達への道を開く



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