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ここのところ三日ほど高い熱にやられ、ずっと寝こんでいた。まわりではインフルにかかる人がふえているらしく、少しばかり不安もある。とはいえ、関節が悲鳴をあげるほどでもないので、たぶんただの風邪だろう。そう思いたい。だが熱のせいで眠りは浅く、二時間おきに目がさめては鼻水をティッシュでぬぐう。そのくりかえしだ。そんな冴えない現実にたまったいらだちを、いまこうしてキーボードにぶつけている。
そもそも、日記だのエッセイだのというものを書く習慣がまったくない。世にいう日記界隈とやらに作法があるのかどうかも知らないし、正直なところ興味もない。だが、知らないから書けないという道理もない。ましてや予防線めいた前置きを置くつもりもない。ただ単に、他人の生活に関心がないだけだ。自分の暮らしだけで手いっぱいで、見ず知らずの誰かにまで気を配る余裕などない。それだけの話である。
それでもヒトは社会と切り離されては生きられない。手を取り合い、ハッピーに暮らせという理想は大昔から語りつがれている。だが私は、その理想の奥にある「魂をみがき自然へ還る」という立派な義務を、一ナノも果たせていない。どこか欠けたまま生きている。だからせめてものつぐないに、ほんのわずかでも社会に触れておこう。そんな半端な動機が、この文章を書かせている。
やがて意識は理屈からはなれ、ふたたび身体へ引き戻される。部屋はしんと静まり返り、時計の気配だけがやけに大きい。眠ったと思えばすぐに目がさめる。二時間ももたない。鼻をかみ、ぬるくなった水を飲み、また横になる。そのくりかえしだ。枕元のゴミ箱には丸めたティッシュが増え続け、熱をもった頭だけがぼんやりと天井を見ている。
こんな夜に考えることなど、たいしたものではない。むしろ考えないために目を閉じているのに、頭は勝手に動き続ける。だからこうして書いている。誰に見せるでもなく、役に立つわけでもない。ただ、言葉にして外へ出さないと、熱といっしょに内側で澱のようにたまっていく気がするからだ。書くという行為そのものが、かろうじて外界とつながる細い糸になっている。
その糸が何かを救うわけでもない。朝になれば、私はまた同じ場所に戻る。欠けたままの自分も、半端なままの生活も、なにひとつ劇的には変わらないだろう。それでも、体温計の数字がわずかに下がるとか、のどの痛みが少しやわらぐとか、その程度の変化なら起きるかもしれない。いまはそれで十分だと思うことにする。
窓の外がわずかに白みはじめている。次に目がさめるころ、熱がもう少しだけ引いていればいい。そうでなくてもかまわない。また目をさまし、水を飲み、鼻をかみ、そして生きている。いまはただ、その事実だけで足りている。
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