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【5分で解説】先延ばし癖を科学する。あなたの意志が弱いわけではない理由

目次

5分で解説

3行で要点

  • ・嫌な仕事の先延ばしは意志の問題ではなく、脳の特定神経回路がブレーキをかける防御反応だと京大が実証した。
  • ・この脳内ブレーキは価値判断とは無関係に、ストレス状況下で自動的に行動を抑制する仕組みである。
  • ・ブレーキ機能の異常は精神疾患や燃え尽き症候群にも関与しており、新たな治療法開発の可能性を示唆している。

本文

多くのビジネスパーソンが経験する嫌な仕事が始められないという現象は、長らく個人の性格や気合の不足として解釈されてきました。しかし、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点を中心とした研究チームが学術誌Current Biologyで発表した研究は、この通説を覆し、先延ばし行動が単なる意志の問題ではなく脳の神経回路に由来するものであることを実証しました。

嫌な仕事を先延ばしにする状態を制御しているのは、脳深部にある腹側線条体と腹側淡蒼球を結ぶ神経経路、すなわちVS-VP経路であることが明らかになりました。研究チームはニホンザルを対象に、報酬と同時に不快な刺激が与えられるストレスの高い課題を用いた実験を行いました。通常、動物たちはこのような課題になかなか手をつけず行動開始が抑制されますが、化学遺伝学という技術を用いてVS-VP経路の機能を選択的に抑制すると、同じ課題に対して躊躇なく取り組むようになったのです。

この実験結果で重要なのは、報酬が欲しい、罰は避けたいという対象への価値判断そのものは変わっていなかったという点です。動物たちは状況を理解していたにもかかわらず行動が抑制されていたのは、理解と実行の間にブレーキ役を果たす神経経路が挟まっているからでした。つまり、行動を開始できないのはやる気がないからではなく、脳の特定の経路が防御メカニズムとして自動的にブレーキ信号を送っているためであることがわかりました。

さらにこのブレーキ機構は、精神疾患とも深く関わっています。研究グループの指摘によると、ブレーキが過剰に強く働く場合はうつ病や統合失調症に見られる意欲低下につながり、逆に弱すぎればストレス環境下でも行動を止められず、過度な負荷を続けることで燃え尽き症候群を招く可能性があります。意欲とはどちらか一方が機能することではなく、アクセルとブレーキのバランスの問題なのです。

本研究の最大の価値は、これまで心理学的問題として扱われてきた領域に明確な神経生物学的基盤を示したことです。将来的には、脳深部刺激療法や薬物療法によってVS-VP経路の働きを調整し、ブレーキの過度な働きを緩和することで、意欲低下症状の根本的改善につながる可能性が開かれています。

元ネタ

「嫌な仕事を始められない」脳回路を解明 “やる気ブレーキ”を発見 京大など



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